第1章 — バイブコーディングの地図
ユウキの挫折
ユウキはスタートアップのフルスタックエンジニアだ。入社3年目、チームは5人。新機能の開発スピードが命のフェーズにいた。
ある日、CTO の提案で Claude Code を導入した。最初の1週間は魔法のようだった。
「ユーザーダッシュボードを作って」と言えば、React コンポーネントが生成される。「API エンドポイントを追加して」と言えば、Express のルーティングが整う。開発速度は体感3倍になった。
しかし2週目、異変が起きた。
- 同じような関数が3箇所に重複して生成されていた
- テストが一切書かれていない
- 命名規則がファイルごとにバラバラ
- import パスが壊れていてビルドが通らない
「AI に任せきりにした結果、コードベースがスパゲッティになった」——ユウキはそう気づいた。
バイブコーディングの3つのレベル
Karpathy が提唱した「バイブコーディング」は、実は均質な概念ではない。実践者のコミュニティでは、大きく3つのレベルに分類されるようになった。
Level 1: カジュアルバイブ
Karpathy が描いた原型。コードを読まず、AI の出力をそのまま受け入れる。個人の趣味プロジェクトや、使い捨てのスクリプトには十分機能する。
向いているもの: ハッカソン、概念実証、個人ツール
リスク: セキュリティ、保守性、スケーラビリティのすべてが犠牲になる
Level 2: ガイデッドバイブ
AI の出力を人間がレビューし、必要に応じて修正する。CLAUDE.md にプロジェクトルールを書き、基本的な制約を与える。多くの開発者が現在このレベルにいる。
向いているもの: 小規模チームの機能開発、個人の本番プロジェクト
リスク: 人間のレビュー品質に依存。疲労やスキル差で品質がばらつく
Level 3: ハーネスドバイブ
本書の主題。AI の出力品質をシステムとして保証する。hooks で自動チェックし、skills で手順を標準化し、subagents で専門性を分担する。人間は「設計」に集中し、「実行の監視」は仕組みに任せる。
向いているもの: チーム開発、本番サービス、長期プロジェクト
必要なもの: ハーネスエンジニアリングの知識と実践
AI コーディングツールの進化
ハーネスエンジニアリングが生まれた背景を理解するために、AI コーディングツールの進化を振り返ろう。
第1世代: 補完型(2021〜)
GitHub Copilot に代表される。カーソル位置のコードを「次の行」として予測する。人間が書くコードの延長線上にあり、制御は完全に人間側にある。
第2世代: 対話型(2022〜)
ChatGPT の登場で「コードを会話で生成する」パラダイムが生まれた。人間が要件を自然言語で伝え、AI がコードブロックを返す。コピー&ペーストが必要だった。
第3世代: エージェント型(2024〜)
Cursor、Aider、Claude Code が代表。AI がファイルシステムに直接アクセスし、コードを読み・書き・実行する。人間は「何を作るか」を伝えるだけでよい。
INFO
エージェント型ツールの決定的な違い: AI が「読む・書く・実行する」の全サイクルを自律的に回せること。これにより「制御」の問題が初めて顕在化した。
なぜ Claude Code なのか
2025年現在、エージェント型 AI コーディングツールは複数存在する。なぜ本書では Claude Code を軸に据えるのか。
Claude Code が選ばれる理由は「ハーネスの深さ」にある。
| 機能 | Claude Code | Cursor | Copilot | Aider |
|---|---|---|---|---|
| プロジェクトルール(CLAUDE.md) | ◎ | ○ | △ | △ |
| Hooks(自動実行) | ◎ | × | × | × |
| Skills(手順の再利用) | ◎ | × | × | × |
| Subagents(専門エージェント) | ◎ | × | × | × |
| MCP(外部ツール接続) | ◎ | ○ | × | × |
| Workflow(複雑なオーケストレーション) | ◎ | × | × | × |
| CLI ネイティブ | ◎ | × | △ | ◎ |
Claude Code は「ハーネスエンジニアリングのために設計されたツール」と言っても過言ではない。設定の自由度と制御の粒度が他を圧倒している。
ユウキの決意
スパゲッティコードの山を前に、ユウキは決心した。
「AI を使うのをやめるんじゃない。AI の使い方を変えるんだ」
先輩エンジニアのミサキに相談すると、彼女はこう言った。
「ユウキ、馬に乗ったことある? 馬は速いけど、手綱なしじゃどこに行くかわからない。CLAUDE.md っていう手綱があるの。そこから始めよう」
こうしてユウキのハーネスエンジニアリングの旅が始まった。
次の章では、その最初の一歩——CLAUDE.md の設計——に踏み込む。